🥁 坂本龍一とYAS-KAZ、バリにて:フィールド録音とシンセとアヒルとガムラン
ふたりの音楽家が交差する、島の時間と身体のリズムをめぐる静かな巡礼の記録
1985年に放送された日本のテレビドキュメンタリーで、坂本龍一はバリ島を訪れた。現地に居る打楽器奏者YAS-KAZを訪ね、島の響きを全身で受け取ろうとする旅。観光でも制作でもない。映像は、旅番組というより、ひとつの音をめぐる巡礼のように進んでいく。
YAS-KAZはこの時点ですでに11年にわたりバリ島に通い、現地の音楽や暮らしと密に関わってきた。日々の儀式や練習の場に通い詰めていた彼が、番組内で初めて現地のガムラン奏者たちと本格的にセッションする様子が収められている。寺院の石畳に並べられた竹と金属の打楽器。その中に彼のドラムが入り、伝統と異邦のリズムが重なり合い、緊張感と共振が生まれる。
第三者のナレーションはなく、代わりに彼ら自身の会話が映像の進行を静かに支える。ふたりが語り合うのは、バリと日本の時間の違い、音楽が日常に溶け込んでいることへの驚きや共感。バリにおいて音楽は、演奏されるものではなく「在る」もの。暮らしと結びついた律動として息づいている。それは80年代日本の実験精神と、バリの土着的な時間感覚との静かな共鳴。
ドキュメンタリーには印象的なシーンがいくつもある。田んぼ道でアヒルを導くふたりの姿。棚田の上で虫の声に耳を澄ます坂本。子どもたちの踊りに囲まれながら、ただ笑っている時間。そして浜辺で真剣な表情のまま交わされる、二人によるジェゴグのセッション。そのひとつひとつに、土地の音と身体を通してつながろうとする試みが映っている。
そしてクライマックスには、水田の真ん中で、シンセサイザーとパーカッションによる壮大な屋外演奏が展開される。農村の風景の中に、突如として現れる機材群と音響。80年代の日本経済の力がなければ実現し得なかった、壮麗な「風景」がそこにある。
この記録は、坂本龍一とYAS-KAZというふたりの音楽家が、ひとつの場所を媒介に交差し、その場にあった音にどう向き合ったかを丁寧にとらえた貴重なドキュメントだ。文化の交差点としてのバリ島、記録される音と記録できない空気のあいだを揺れ動くような映像体験。そして、時代の空気ごと封じ込められたその映像はいま、あらためて見ることで新しい響きを帯びる。
Time Capsuleの最新リリース『TV, Anime & Manga New Age Soundtracks 1984–1993』にも、YAS-KAZが手がけた楽曲が収録。人気SFアニメ『孔雀王』のために制作された深く瞑想的なサウンドスケープは、このバリ島での経験が響き合っている。
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