Underflow Record Store & Art Gallery: ブレない空間の現在形(Part II)
地下の音、レーベル、リスニング文化、その継続について
Part I では、Underflow Record Store & Art Gallery がどのように立ち上がり、ヴァシリスとイアニスという二人の関係性や判断、そしてその後の時間によって形づくられてきたかを辿った。
この Part II では、視点をいまの場所に置く。起源ではなく、現在の機能について。ここで焦点になるのは、日々の実践。時間をかけて育ってきたアーティストによるプログラミング。多くの実験音楽が鳴り続けてきた地下空間。レーベル、リスニング・セッション、そして目立たないが欠かせない、継続のための日々のバー・カフェ。これらが重なり合って、現在の Underflow が形づくられている。
以下では、少人数の関係者がどのようにこの場所を「現在形」で動かしているのかを見ていく。何か新しいことをするのではなく、当初の精神をそのまま継続するという意味について模索していく。
Q:現在の Underflow のプログラミングを、どう捉えていますか。アテネ全体の中では、どんな位置づけでしょうか。
ヨルゴス:Underflow は、最初からかなりフォーカスがはっきりしています。アヴァンギャルド・ジャズ、実験音楽、現代音楽、電子音楽。そのあたりですね。
アテネの中では、「大きな文化機関」と、すごく小さな DIY の場所のあいだに位置していると思います。ヴァシリスとイアニスがやりたかったのは、敷地面積以上のものを感じさせる場所でした。ギリシャのミュージシャンと、海外のアーティストをつなげるような空間です。
地下の会場は特に重要ですね。シリーズ化してきた電子楽器と生楽器の即興演奏のセッション、コンテンポラリー・フォークやノイズ、アートロックまで、いろいろな表現形態がここで行われてきました。結果的に、ミュージシャンだけでなく、映像作家や文化的な実践者も集まる場所になっています。
Q:Underflow はレーベルも運営しています。その役割について教えてください。
ヨルゴス:レーベルは、オープンから数年後、2017年か18年頃にヴァシリスが始めました。目的はシンプルで、地元の即興や実験的なプロジェクトに、ヴァイナルという形で居場所を与えることです。
この場所では、これまで本当に多くの即興演奏家が演奏してきました。そういう中で、自然とコラボレーションが生まれる。正直、ほとんどギャラを取らずに演奏してくれる人も多いです。それは、店を続けてほしいという気持ちがあるからだと思います。
次のリリースは、ギリシャのモジュラー・シンセのアーティストと、ノルウェーの著名なトランペット奏者のコラボレーションです。まさに、創設者たちが望んでいた形だと思います。
Q:ギャラリーや視覚的な側面についても聞かせてください。そこにはどんな意図があったのでしょうか。
フィリッポス:イアニスは建築を学んでいましたし、ドキュメンタリーや映像作品にも深く関わっていました。たとえば、パトモス島で引退したロバを題材にした映画を作っていたり。彼は、少し変わった題材や、見過ごされがちな物語を見る目を持っていた人です。
ヨルゴス:ヴァシリスは、最初からギャラリーを空間に組み込んでいました。以前には、ギリシャの元ユネスコ会長が収集していたアフリカの仮面コレクションを展示したこともあります。そのコレクションに関連して、かなり特別なものもありました。アフリカ各地のコミュニティや部族を記録した、大量のフィールドレコーディングのテープです。アラン・ローマックスに近い部分もありますが、視点はまた別のものです。
現在はいろいろな理由で公開できていませんが、そうしたアーカイヴが存在していること自体が、創設者たちの文化的な視野の深さを示していると思います。
Q:現在の課題と、これから Underflow をどう続けていくのかについて教えてください。
ヨルゴス:一番の課題は、単純に人手ですね。レコード店、バー/カフェ、ギャラリー、ライブ会場、レーベル。この五つを少人数で回しています。創設者が持っていたような経済的な余裕はないので、自分たちで流れを作っていく必要があります。
アレクシス:最近は、リスニング体験そのものに、より意識を向けています。Underflow には、音を目的に来るリスナーが多い。いわゆるオーディオファイル的な感覚を持った人たちです。そのため、リスニング・セッションは単なる社交の場ではなく、音に集中する時間になります。機材、選ばれたレコード、そして空間そのものが一体になった体験です。
これはジャズ喫茶の文化とも自然につながる部分があって、今後はインディペンデント・レーベルとの協働などを通して、さらに掘り下げていきたいと考えています。
日本のジャズ喫茶のように、一人で行って、レコードを最初から最後まで聴く。そういう空気感と、人の手触りを大切にしたいですね。
フィリッポス:それと、オーディオ機器についても少しずつ考え始めています。DIY のメーカーと組んだり、ハイファイに力を入れたり。より深く聴きたい人が多いので。
ヨルゴス:10周年のイベントで、コミュニティの力をあらためて感じました。10年かけて積み重なったものは確かにあって、それがいまの支えになっています。資金調達や EU とのつながりも模索していますが、最終的にこの場所を動かしているのは、創設者たちが思い描いていた「夢の続き」を信じている人たちの存在だと思います。
Underflow Record Store & Art Gallery の物語は、ビジョンがあり、途切れがあり、それでも続いてきたという話だ。ビジネスの論理ではなく、「なくしたくない」という人たちの意思によって前に運ばれてきた場所。ヴァシリスが考えていた「理想のレコード店」は、販売の場ではなかった。過激な音のための居場所だった。
短い期間に二人の創設者を失いながらも、この場所はいまも、人の手によって支えられている。能動的なリスニングを重ね、実験的な表現を育て、ローカルと国際的なアーティストをつなぎ直しながら、Underflow はアテネにおける重要な文化的拠点であり続けている。
揺れやすい時間の中で続いてきた店。人の意思によって支えられている場所。
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