タイムカプセル

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Cosmic Slopという場所が鳴らしているもの

トム・スミスが語る、MAP Charity、オルタナティヴ教育、そして手づくりのサウンドシステムが育ててきた場

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Mar 30, 2026
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📸 Cosmic Slop

希少さを売りにするパーティがあれば、話題の熱量で人を集めるパーティ、空間そのものの力で成り立つパーティもある。英国北部の都市リーズにあるCosmic Slopは、そのどれかひとつに収まるようなものではない。ファンドレイザーであり、コミュニティを動かす原動力であり、長い時間をかけて育てられてきたサウンド・システムでもある。既存の教育の枠組みからこぼれ落ちた若者たちと向き合うチャリティ団体、MAP(Music & Arts Production)が活動するHope Foundry内にあるHope House Galleryで開催され、そこで生まれる収益は、そのままMAP Charityの教育プログラムに還元されている。

MAP Charityの創設者のひとり、トム・スミスに話を聞いて見えてきたのは、整然とした創設ストーリーというより、いくつもの要素が連鎖しながら現在の形にたどり着いたその過程。悩める若者の支援活動、ハウス・ミュージック、フェラ・クティ、ジャマイカのサウンドシステム文化、ニューヨークのダンスフロア神話、拠点の建物を確保するための長い道のり。そして、音楽は社会生活の添え物ではなく、その社会自体を動かす最も優れた道具のひとつだという確信だった。

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その始まりについて、トムの語り口は実に淡々としている。「僕は創設メンバーのひとり。いまもMAPで働いているチャーリーと一緒に立ち上げた。当時は若者支援の現場にいて、オンライン・ラジオのようなことをやったり、子どもたちと音楽制作をしていた」

最初のアイデアは、もっと小さく、もっとシンプルなものだった。音楽イベントの拠点をつくり、イベントを開き、部屋が空いているときにはその機材をコミュニティに開くこと。けれど、その構想は現実に触れた途端、重心を変えていった。ナイトライフを事業として成立させる方向から、教育へ、若者へ、そしてチャリティそのものへと軸足が移っていった。

「その変化は自然なものだったと思う」とトムは言う。「本当に良かったよ。あの変化があったことで、すべての焦点が合ってきたんだ。単に目的ができたというだけじゃない。輪郭がはっきりした。みんなが、なぜそれをやるのかを見えるようになった」

MAP Charityが始まったのは2007年。続いてCosmic Slopが2009年に始まる。その後しばらくのあいだ、パーティは家賃を支え、その後は教育活動も少しずつ育っていった。トムの話で重要なのは、この二つが後から無理に結びつけられたものではなかったということだ。出どころは最初から同じだった。

「自分にとって、その根っこにあるのは音楽なんだ」と彼は言う。

「17歳くらいの頃にハウス・ミュージックに出会って、それからフェラ・クティや世界各地の音楽を知り、政治的な考え方に触れるなかで、さまざまな時代や場所で人びとが自分たちのコミュニティや社会をどう捉えてきたのかを聴いてきた。そうした経験が、自分にとって音楽は何のためにあるのかを形づくっていったし、その延長で、アートが何かを伝えるものとして、なぜ存在するのかを考えるようになった。」

いい答えだと思った。音楽をセラピーやブランディング、あるいは曖昧な社会貢献の文脈だけで語っていないからだ。そこにあるのは、音楽がもっと大きな意味で人と人のあいだをつなぐという感覚だ。シーンを越え、階層を越え、言語を越えて、考え方や感覚が伝わっていくこと。

「音楽はずっとコミュニケーションだった。文化の壁を越えて、ものすごく速くアイデアを伝えられる。伝達のための道具でもあるし、共有するための道具でもある」

この一言で、Cosmic Slopが単なるファンドレイザーに見えない理由もわかってくる。トムが音響やスピーカー設計、教育について、同じ重さで語る理由もそこにある。彼のなかでは、それらは別々の話ではない。音楽が重要なら、人がそれにどう出会うか、その条件まで含めて重要になる。

トムがどんな音や場所に惹かれてきたのかをたどると、いまのCosmic Slopにもはっきりつながっている、いくつかの源流が見えてくる。一方にはジャマイカ、そしてイギリスにおけるジャマイカ系移民のサウンドシステム文化があり、もう一方にはニューヨークのロフトやディスコに連なるリスニング文化がある。数々のダブ・セッション、Body & Soul、Joe Claussell、David Mancuso、Richard Long、Paradise Garage。古い写真のなかに半ば隠れるように写り込んだスピーカー・スタックやターンテーブルの位置にも、彼は強く惹かれていった。彼の話しぶりから伝わってくるのは、耳で聴き、本を読み、粒子の粗い写真を見つめながら、その部屋が実際にはどんな感触だったのかを想像することで学んできた人だということだ。

「ほとんど神話みたいに捉えてたよ」と、トムは少し照れたように笑う。「昔の写真を見ながら、あれは何だろう、奥に見えてるのは何だろうって。どれだけすごかったんだろうって思ってた」

そうした想像の飛躍は、かなり早い段階で実践へと向かっていく。トムによれば、Cosmic Slopのサウンドシステムは、MAP Charityそのものより前から存在していた。彼には、その必要がかなり早い段階からはっきりしていた。ただし、それは既製のシステムをどこかから買って入れるような話ではない。ロフトやパラダイス・ガラージのような歴史的な場所について読み、古い写真を見て、ジャマイカとニューヨーク、それぞれの系譜を手がかりにしながら、ドライバーや箱の組み合わせを少しずつ考え、自分たちの場所にとって何が必要かを探っていった。その積み重ねのなかで形になってきたのが、いまのシステムだ。十代を出たばかりの頃に初めて作ったスピーカーは、いまもまだその一部として残っている。そこから追加も、差し替えも、作り直しも、細かな改良も重ねてきたが、すべてを一新するような転換は一度もなかった。

「いわゆるバージョン2.0みたいなものはなかったんだ。せいぜい1.11とか、そのくらいだと思う」

この連続性には意味がある。いまのオーディオの世界には、新しさそのものをありがたがりすぎるところがある。けれど、トムの話はもっと手仕事に近い。慎重につくること。ゆっくり学ぶこと。機能しているものは残すこと。音を太くしても、輪郭をぼかさないこと。異なる二つの伝統を、どちらの持ち味も損なわずに、自分たちの空間に合わせて組み上げていくこと。

トムがジャマイカのサウンドシステム文化に惹かれるのは、その力強さと荒々しさにある。「もっとパンクなんだよ。もっとラフで、もっと剥き出しで。ずっとヘヴィだし、延々と続いて、どんどん低音が深くなっていく感じがある。」

一方で、ニューヨークの系譜に見出す価値は別の種類のもの。スケール、美しさ、配置、フルレンジで聴かせる感覚、そして部屋全体をひとつの楽器のように扱う発想。トムの言葉を借りれば、Cosmic Slopはそのふたつを溶け合わせながら形になっていった。単なる折衷ではなく、実際に機能するかたちでひとつになっている。

それだけでも十分に興味深い空間ではある。けれど、この場所に本当の重みを与えているのは、それがMAP Charityの活動全体の流れのなかにあることだ。

トムは教育の側面についても率直に語る。一般的な中等教育の仕組みが、すべての若者に合うわけではない。MAPが向き合っているのは、そうした既存のシステムにうまく居場所を見つけられない10代の若者たちだ。音楽やアートを軸にしながら、生活に必要なスキル、数学、英語も含めたかたちで、別の学びの場を組み立てている。何年も学校に通えていない生徒もいる。毎日学校には行っていても、絶えず衝突を抱えている生徒もいる。そこから押し出されてしまった者もいれば、周囲とうまく関係を結べずにきた者もいる。要するに、ひとつの仕組みですべてに対応できるわけではない、ということだ。

「必要なやり方は、一人ひとり違う。要するにそういうことなんだ」

MAPが際立って見える理由は、クリエイティヴな環境で少人数教育をしているからだけではない。その教育を取り巻く環境そのものに、この場所らしさがある。生徒たちは、実際の仕事や大人の実践から切り離された、ある意味抽象的な学校教育環境のなかにいるわけではない。ここにはものをつくる人がいて、印刷する人がいて、録音する人がいて、パーティを開く人がいて、レコードをカットする人がいて、ワークショップを回す人がいて、部屋の雨漏りや壁を直す人がいて、インフラを組み上げる人がいる建物のなかにいる。こういったプロフェッショナルたちは、やる気を引き出すためだけに呼ばれる外部講師ではない。すでにそこにいて、日々何かしらの手を動かしている。

「自分たちがやっていたことが何なのか、はっきり見えてくるまでには少し時間がかかった。でも、ここではプロフェッショナルのほうが彼らのもとに来るんだ。ひとつのエコシステムなんだよ」

Cosmic Slopもまた、その生態系の一部として成り立っている。海外や他の地方から来るアーティストは時間を提供し、地元のセレクターたちは名の知られたアーティストと並んでプレイする。その場に漂っているのは、いかにも『地域貢献』といった催しの空気ではなく、実際に機能しているシーンの熱だ。トムが言うように、その効果は一方向では終わらない。若い人たちは、音楽やアートが現実の労働や継続、アイデンティティとつながりうることを目にする。いっぽうで、外から来るアーティストたちも、自分たちの仕事が、もっと具体的なかたちで誰かや何かに結びついていくことを知る。

トムにとって、この話はやがて、いま多くの若者が社会や教育から距離を取ってしまう、その奥にあるもっと根本的な問いへと行き着く。何のためにやるのか。彼はそこをごまかさない。

「子どもたちは、まさにそう言うんだよ。『一体、何の意味があるんだよ』って」

彼の答えは、スローガンではない。そこにあるのは、建物であり、部屋であり、パーティであり、ワークショップであり、サウンドシステムであり、時間割であり、損得だけでは結ばれない大人たちとの関係だ。しかもそれは、暮らしの多くがスクリーンのなかへ押し込められていく時代に、アナログなプロセスの価値を具体的に示すことでもある。

ここで言う『アナログなプロセス』とは、古い機材への趣味ではない。手でつくり、試し、聴きながら調整し、育てていくやり方そのものだ。

会話の終盤、トムはその話にもう一度戻ってきた。「昔から、こういうアナログなプロセスが好きだった。アナログの電子機器、アナログのシルクスクリーン、現実のもの、実際の道具。前は、ただ自分がちょっと変わってるだけなんだと思ってた。でも時間が経つにつれて、なぜこれが大事なのかが、前よりずっとはっきり見えてきた」

この言葉が響くのは、ただ昔を懐かしんでいるわけではないからだ。昔のやり方が道徳的に正しかった、と言いたいわけではない。身体を伴い、誰かと共有できて、手で触れられる経験が少なくなっていくほど、むしろそれは必要になっていく。そういうことを彼は言っている。

「こういう現実の場で起こることが、感覚を立て直してくれるんだよ」

Cosmic Slopを理解するうえで、いちばん大事なのはたぶんそこだ。現実逃避ではない。ヴィンテージ・オーディオ文化へのフェティッシュでもない。「チャリティ」を掲げ、その脇にダンスフロアを添えたものでもない。もっと切実に、感覚を現実の場へ引き戻すためのものに近い。スピーカーをひとつずつ組み、セッションをひとつずつ重ね、生徒ひとりひとりと向き合いながら、音楽がきちんと鳴ることで、その場の感じ方や人のあり方は変わりうる。そう信じて、時間をかけて育てられてきた場所なのだ。

そして、そうして生まれた場が、誰かを支えることになる。

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