コーナーに置かれたスピーカー:部屋から部屋、街から街へ
Beauty and the Beat、brilliant corners、そしてロンドンから広がったサウンドカルチャー
前半では、1946年にアーカンソー州ホープで生まれたKlipschornが、David MancusoのThe Loftへ渡り、さらにLucky Cloud Sound Systemを通じてロンドンへと受け継がれていく軌跡を辿った。そこで大切にされていたのは、スピーカーを歴史的な名機として祀り上げることではなく、音を中心に人が集まり、部屋が生まれ、音楽を聴く時間そのものが分かち合われていく、実践としての営みだった。
2000年代半ばになると、その精神はロンドンのより個人的で、即興的で、土地に根差した形へと広がっていく。ひとつの部屋、ひとつのパーティー、ひとつのサウンドシステムだけに宿っていたものではなく、友人のつながり、借りた空間、手づくりの機材、自宅でのリスニング、そしてダンスフロアを消費の場ではなく共に耳を澄ます場として扱う夜々のなかで、静かに引き継がれていった。後半では、Beauty and the Beat、brilliant corners、そしてその先に生まれた場を通じて、ロンドンに置かれたKlipschornが部屋から部屋へ、街から街へと鳴り響いていく過程を追う。
Beauty and the Beat
Beauty and the Beat、通称BATBは、この流れがロンドンで独自の輪郭を持ちはじめた最初期の場のひとつだった。ただし、それはLucky Cloudの単なる延長ではなかった。セドリック・ラソンドは2000年代初頭にニューヨークのThe Loftで踊っていたし、ジェレミー・ギルバートは2002年からLucky Cloudに深く関わっていた。そこにシリル・コルネが加わり、彼らを結びつけていたのは、それぞれの体験と、ハウスパーティーをひとつの表現形式として捉える感覚だった。多くのクラブでは実現しづらい自由さ、親密さ、音楽の深さが、そこにはあった。自分たちの家は、彼らが作ろうとしていた夜には、もう小さすぎた。
2005年6月にLucky CloudがフルのKlipschornシステムを手に入れた頃にはBATBが実現可能なものになり、同年9月に始まったこのパーティーは、そのセットアップをLucky Cloudから大きく引き受けながら、独自のアイデンティティを築いていった。
BATBが決定的だったのは、過去の例を忠実に真似たからではない。むしろ、その系譜を外へ開いていったことにある。デヴィッド・マンキューソが繰り返し語っていたように、The Loftをフランチャイズ化することが目的ではなかった。大事なのはオリジナルであることだった。Lucky Cloudは、マンキューソから受け取った音と場づくりの作法を、ロンドンの空気の中で息づかせた。BATBはそこからさらに踏み込み、その継承をより自分たちのものとして鳴らした。
良い音、親密さ、一晩の感情を急がず運んでいく感覚は残った。しかし、音楽と部屋の気配は変わっていった。ロンドンらしい音がよりはっきりと入り込んできたのだ。ベースの重み、カリビアンの影響、フランス的な感性、英国のレイヴとクラブ文化、ハウスパーティーのゆるさ。そしてPlastic Peopleのような場所が残した、ダンスフロアとは何かという感覚の変化もそこにあった。
BATBが今も長く生き続けている理由は、受け継いだものを決まった型や正解として扱わなかったことにある。会場は変わり、世代の違う友人やボランティアたちが集まり、運び、組み、迎え入れ、その夜を何度も作り直していった。
しかし本当の鍵は、やはりその音楽性だった。BATBはこの文化を、決まった形のまま守るべきものとして扱わなかった。過去から受け取った知恵を、そのまま再生するための場でもなかった。
選曲は常に現代の感覚に対応していた。1970年代ニューヨークの博物館ではなく、地理、政治、その時々の感情の質によって形づくられる、生きた社会的な音楽だった。
だからBATBは、受け継いだものを大切にしながらも、懐古のための場にはならなかった。
開かれたまま、今この瞬間の音楽として生き続けた。
サウンドシステムのその先へ
BATBが回を重ねるうちに、The LoftやLucky Cloudから受け取った考え方や作法は、現代のロンドンの感覚と混ざり合いながら、少しずつ更新されていった。良い音へのこだわり、テンポやジャンルに縛られず一曲一曲を大切に聴く姿勢、誰もが安心して身を置ける開かれた空気。それらは先人たちから受け継いだものだったが、カーニバルの低音、Plastic People以降の身体感覚、アフリカやブラジルのポリリズム、電子音楽の質感、ジャズの余白が交差するなかで、BATB自身の形へと育っていった。
2013年にダルストンでオープンしたbrilliant cornersは、その流れを常設の場所へと移した、もうひとつの重要な展開だった。ハウスパーティーとは異なるモデルでありながら、食事、飲み物、空気、そして本気のサウンドが共存できる常設の場所を作った。アミットとアニーシュ・パテルは、BATBとLucky Cloudに出会い、あの一夜限りの世界を作るための労力を目の当たりにしたこと、そしてなぜそのような音楽体験のための恒久的な場所がないのかと考えたことを語っている。のちに人々は「リスニングバー」という言葉を使うようになるが、そこで起きていたことをその一語で片づけるには、少し狭すぎる。
その後に広がっていった動きは、ひとつの直線的な影響関係として語るよりも、手から手へ渡っていった文化として見るほうが近い。
パリのSweet Apricots、シェフィールドのApricot Ballroom、ロンドンのAll Our FriendsとRude Movements、ナントのDays、リスボンのBeija Flor、バーミンガムのPra Vida。それぞれ異なる道筋を持ちながらも、良い音と親密な場をいかにつくるかという問いを、それぞれの街で引き受けていた。上から設計されたものはひとつもなく、友人関係、手を貸すこと、互いへの信頼によって、少しずつ形になっていった。
その次の世代の一部は、さらに先へ進んだ。憧れるだけでは終わらなかった。自分たちでスピーカーを作り始めたのだ。Sweet Apricotsのスリム・ブザヴィッチはKlipschornを二組制作した。Rude Movementsのジョシュ・ビーチャムとジョニー・クレイヴンもそれに続き、設計を改造し、拡張していった。さらにロブ・ホールとともに、クリプシュの近年の大型モデルであるJubileeシステムまで自作するようになる。これは文化が単に広がっただけではなく、その内容もより深まっていることを示している。スピーカーはもはや、過去から受け継がれた崇拝の対象ではない。それは、ただ語り継がれるものではなく、手を動かして受け継いでいく技術になった。音の背後にある物理的な理屈を学び、自分たちの部屋、都市、コミュニティのために作り直そうとする人々の手によって、その技術は今も生き続けている。
もちろん、この文化はBATBだけを通って広がったわけではない。ペルージャのLast Note、バルセロナのCloud 9、ブリストルのPrecious EnergyとMusical Fruitsもまた、源流の流れを別の形で受け止めた場所だった。日本はまた別の道をたどった。デヴィッド・マンキューソの来日と、札幌Precious Hallの小川悟氏による仕事を通じて、きわめて真剣に追求され、独自の発展をとげることになる。
これらの夜には、どこか共通する景色がある。ダンスフロアの角に設置されたKlipschorn。親密さを失わないまま大きくなったハウスパーティーの感覚。そして、開かれていること、急がないこと、感情の幅を受け止めることへのこだわり。
大切なのは、この物語が一本道ではなかったことだ。Klipschornの文化は、それぞれの街の人や場所を通りながら、いくつもの形で広がっていった。
さらに、そうした明確なつながりを持つ場所だけでなく、近年では世界各地のヴェニュー、パーティー、レコードショップでKlipschornを見かけることが増えている。より多くの人々が、スケール、奥行き、身体的な存在感を持ったリスニング環境を求めるようになっているからだ。
その頃には、Klipschornはアーカンソー州ホープを遠く離れ、さまざまな街のフロアや部屋に根を下ろしていた。
人が集まり、音楽を聴き、ともに場を作る。そのための方法の一部になっていた。
Klipschornが鳴り続ける理由
「何を入れても、スピーカーはそれに応える。正しく与えれば、正しく反応する。作った人間を映し出す、正直なスピーカーなんだ」— デヴィッド・マンキューソ
Klipschornが生き続けてきたのは、最初のアイデアに、流行を超えて機能し続けるだけの強度があったからだ。高能率、広いダイナミックレンジ、低歪み。さらに、部屋そのものを楽器の一部にしてしまうコーナーホーン設計。
だからこそ、このスピーカーはアーカンソー州ホープからデヴィッド・マンキューソのThe Loftへ渡り、そこからロンドンのパーティー、ヴェニュー、リスニングスペースへと移動していくことができた。
それぞれの場所が、受け取ったものを自分たちの部屋と街のために鳴らしていった。
文章:Kay Suzuki
協力:Matt Sommers、Tim Lawrence、Jonny Craven
写真:Klipsch Museum of Audio History、Guillaume Chottin、Matt Cheetham、Tim Lawrence、Miguel Echeverria、Silvia Gin、Jan Vaceanu-Staicov
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